別れの情景

   左手の薬指から、リングを 外し
     テーブルの向こう側のひとの眼の前に 置いた。

そのひとは、「ぎょっ」という顔つきになり・・・・
慌てて、「それは、返さなくて いいから、持っておいてくれたら、いいから・・」と言った。
わたしは、また、受け取った。

    でも、これで「終わった」と思った。

あたしは、大学4回、そのひとは、一年前に卒業していた。同じ大学やった。
そのひとは、京都住みやったけど、大阪に 就職していた。

そのひとに合わせて、「卒論」の授業だけ 採り あたしも大阪に帰ってきた。
あたしのうちは、ハナテンで「お好み焼き店」を営み、なかなかの盛業やった。

大阪に帰ってきたものの、あたしは「うち」のバイトに追われ、デートの日が 無かった。

母に「日曜日 休ませて・・」と頼んだが、「あかん」て言われた。

彼は、寂しかったのだろうか・・・・。あたしは、寂しかっただろうか・・・。

いや、あたしは、彼の「不誠実」を見抜いていた。

よしんば、結婚したとしても、・・・「離婚」が、待っているだけだと 知っていた。

終電も 無くなって、京橋から、はなてんまで 歩いて帰った。

何を、話すわけでもなく・・・二人で 歩いた。

突然、あたしの中で、激情が 溢れ、彼の「ほほ」を 打った。
大人の男の「ほほ」を打ったのは、これが、初めてで、最後だった。

なにかの彼の「言葉」が、きっかけだったが・・・いまは、憶えていない。

そのまま、走った。

走っているあたしの横に 車が停まり、ドアが開いた・・・。

あたしたちを見ているひとが いたのだろうか。。。

自暴自棄の女は「誘い易い」と 思われたのだろうか・・・・・

そんな車になんか、乗るはずない・・・!

走っていると橋が あった。飛び込んだら、どんなだろうか・・・そう思った。

欄干に乗ると 追いついた彼に、止められた。

「大丈夫だよ!・・・あたしは、泳げるもの・・・」
     夏だったろうか・・・。

「あほやな・・・こんな時は泳げなくなるものだ・・・」
     そうかもしれない・・・。服も きているし・・・。

また、歩いた。

そして、家に 着いた。
そのひとは、タクシーで帰っていった。

あたしは、見送り、彼もまた タクシーの中で、後ろを振り返っていた。

別れてからは、あたしは、「独り」を持て余した。

「独り」が寂しかった。
二人の「空気」が自然だったのだろうか・・・アベックを見るのが 辛かった。

社会活動に せいを出した。
大阪市肢体不自由児サービスグループというところに 所属し、リーダー的存在だった。

梅田で、車椅子の子を 押して歩いているとき、見覚えあるコートのひとを見た。
考えてみれば、ここは、そのひとの通勤路だった。

あたしは、前をむき 歩いた。

その人もまた、歩いてきた。

そのまま、二人共 何も言わず すれ違った。

お互い もう「路傍の石」なのだ。・・・そして、これが、その人を見た最後だった。

数年 経ってその人の「会社」が倒産したのを、ニュースで知った。
女を泣かした「天罰」だと 思った。でも、その人はきっと、「倒産」を いち早く察知し・・、うまく立ち回ったと 思う。 

   共通の友達から、新しい彼女と「結婚」した。と 聞いた。
    それが、よかったのだろうと思った。

スポーツジムで、「土倉」さんという人が きていた・・・。
それは、懐かしい名前だった。

尋ねてみた。

「京都の五条のお菓子屋さんを ご存知ありませんか?」
「親戚です。」
「5人兄弟さんのことを ご存知ですか?」
「消息は、わかりません・・・」

落胆したわけでも 無かった。

それから・・・

更に、さらに、その人は、「霧のなかの人」に・・・なった。

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by rin0122usa | 2015-03-13 22:55 | Comments(0)